オーストリア＝ハンガリー二重帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ一世とその孫のキャビネ判の古写真。

書籍やカタログに掲載されている写真の当時物の原版。

フランツ・ヨーゼフ一世は、フランツ・カール大公とバイエルン王女ゾフィーの長子。
伯父のフェルディナント一世皇帝の跡を継いで若年で即位し、その長い治世の間に、相次ぐ敗戦や二重帝国の成立等によって帝国は着実に衰退への道程を辿り、神聖ローマ帝国の崩壊から始まったハプスブルク家の没落は留まることなく、ドイツの盟主の地位を新興国家プロイセンに奪われる形でオーストリアという端の小国に追いやられ、さらにその中での民族主義の高まりを抑え切れずに、帝国は崩壊の一途を辿っていた。
欧州で広がる自由主義の中、旧体制の象徴とも言える帝国の皇妃の暗殺、大戦勃発の契機ともなったセルビアでの皇太子夫妻の暗殺が遂に楔となり、ハプスブルク家による支配は瓦解した。

家庭生活も幸福であったとは言い難く、有名な女優のカタリーナ・シュラット(キス フォン イッテべ男爵夫人)のほか幾人かの愛人との間に複数の婚外子がいた。
長男の皇太子ルドルフ大公とは不仲で、皇太子は皇帝には遺書を遺さずに自殺しており、ルドルフ大公と妃のベルギー王女シュテファニーとの間の嫡出子(大公の庶出子は30人以上いたと言われている)はエリーザベト・マリー大公女しかいなかったために、皇帝は孫娘が女帝となることを望んでいたと言われているが、叶わなかった。
甥に当たるフランツ・フェルディナント大公が皇太子となっていたが、大公は伯爵令嬢との貴賤結婚によってその結婚による子孫の皇位継承権を持てなかったため、大公夫妻が暗殺された後は大公の甥に当たるカール大公がその跡を継いだ。
最後の皇帝カール一世は、フランツ・フェルディナント大公の弟のオットー大公(美貌で知られていた)とザクセン王女マリア・ヨーゼファの長子で、フランツ・ヨーゼフ皇帝は、写真中のエリーザベト大公女がその皇后となることを望んでいたが、カール大公にはすでに意中の相手がおり、それも叶わなかった。
カール大公自身も、旧諸侯家のプリンセス(ドイツ帝国内の大公国や公国では貴賤結婚とされない例もあるが、神聖ローマ帝国の崩壊で独立性を失い、各国で臣下となっていた旧諸侯家との縁組は同等の結婚とは見做されない場合が多かった。当時はリヒテンシュタイン家もすでに帝国の臣下となっており、ハプスブルク家の成員((フランツ・フェルディナント大公の異母妹))との縁組は貴賤結婚に当たると囁かれていた)との結婚を望んでいたが、皇帝が皇后となる相手に高位王族(ゴータ貴族名鑑という、ランク付けされた各家の名簿が存在する)を望んでいたため、スペイン王家の傍系にあたるブルボン＝パルマ公国の公女ツィタと結婚した。

写真は、老皇帝とその三女マリア・ヴァレリー大公女の子供たち。
大公女の夫はハプスブルク家の旧トスカーナ大公国系統の分家(ウィーンに亡命していた)の傍系出身のフランツ・サルヴァトール大公で、写真の左端の人物がバート・イシュルの城館の主。
右端が前述のエリーザベト大公女(愛称エラ)で、後に旧諸侯家の成員の夫人となっている(その頃にはハプスブルク家内にも平民と結婚したり、一般市民となる成員も多く、旧諸侯家との縁組は少なくなかった)。
皇帝に抱かれているのが次女ヘートヴィヒ大公女。

皇族の写真を撮影していた写真師による撮影で、右端に複製禁止の刻印がある。
ややセピアカラーだが、コントラストは良い。
角に丸み、傷・汚れあり。
状態は良い。


※古写真について
鶏卵とは写真のプロセスを言い、手札判とは、いわゆるアンティークの分厚い面取りガラスの写真立てに入れて卓上に飾ったような大きいキャビネ判ではなく名刺サイズを指す、鶏卵紙を使用した古写真の種類です。
鶏卵写真より少し後の時代の銀塩写真(シルバープリント、独特の光沢がある)もコレクターズアイテムとなっており、アンティークのポストカードにもその手法で作られたものがあります。
手札版の鶏卵写真は、元々は当時海外でカルト ド ヴィジットと呼ばれた訪問時に相手方に名刺代わりに差し出す写真入りのカードで、王侯貴族や俳優等の有名人のカードはスタジオにより販売されていました。
現在で言う付録のカードとはまた異なり、そういった食玩的なセレブリティーのプリント写真入りカードもアンティークには存在しています。
手札判写真のコレクターはカルト(カードの仏語)マニアと呼ばれ、ヴィクトリア女王もその蒐集家の一人でした。
今も英国のナショナルポートレートギャラリーにはヴィクトリア女王の縁戚の王侯貴族の写真が多くあります。
古写真自体が近年まで日本ではあまり評価されて来なかったもので、当時からアルバム用の大型の写真等も海外へのお土産用として欧米に渡っています。
ですので、海外の美術館のようなコレクションを誇る機関は日本にはありません。
けっこう前の情報ですが、古写真をコレクションしているのも熊本大学くらいでした。
着色写真など芸術的な観点から美しいものも多々あり、また、取り壊された城郭や藩邸、火災で消失した金閣寺等々現存していない建物の写真も残されており、史学としても貴重な資料が多く在ります。


※お取引に関する注意点
・商品の傷、汚れは目立つもののみ記載
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